普通の顕微鏡で見えた肝臓の成熟の秘密
学校で習う動物細胞は普通、一そろいの染色体を一つの核に納めて持っています。では、肝臓の大部分の細胞は染色体を複数セット持ち、20-30%の細胞は複数の核に複数の染色体を分けて持っているということをご存知でしょうか。私は肝臓細胞が核や染色体を複数持つのはなぜか、どんなメリットがあるのか、という課題に取り組んでいます。
この研究課題は初めから持っていたものではありませんでした。この課題に「気がついた」一番大事なきっかけは、顕微鏡で核を複数持つ培養細胞を見たことでした。でも、始めはいったい自分が何を見ているのか、まったくわかりませんでした。でも、細胞に見られる現象ならどんなことであっても、我々の役に立たないはずがないと思って観察を続けました。そして写真を他の研究者に見てもらったり過去の研究を調べたりして、あるとき、肝臓細胞はもともと核を複数持つものだという、意外な「常識」に出会ったのです。ここでやっと「肝臓細胞が2つ以上の核を持っているのはどうしてか」という課題にたどりつきました。
今では仔ラットが生まれた直後の食餌が肝臓の成熟に関わっているかもしれないという、思いもしなかった可能性が見えてきています。それは研究の一つの出口であると同時に新たな課題の入り口です。これから先、どんな研究の出口が見えてくるのかを楽しみに研究を続けています。
物質・環境類
准教授 佐伯 俊彦
- Proteomic analysis identifies proteins that continue to grow hepatic stem-like cells without differentiation. Cytotechnology (2008) 57: 137-143
- Study of butyrate signal transduction pathways in rat hepatic stem-like cells. Animal Cell Technol.: Basic & Applied Aspects, Proceedings of the 21st Annual and International Meeting of the Japanese Association for Animal Cell Technology (JAACT) (2009) 16: 269-275
- 「ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤が細胞質分裂不全を引き起こしラット肝臓幹様細胞を多核にする」第88回日本生化学会大会 2015年12月2日