遺伝子から病気を理解し、創薬へ
ヒトにはホルモンなどのリガンドと結合することにより核内で遺伝子の転写を活性化する「核内受容体」と呼ばれるタンパク質が48種類あります。核内受容体の多くは、がん、糖尿病や肥満などの生活習慣病などの治療薬開発の標的となっていますが、生体内での実際の機能は未解明な部分も多くあります。
そこで我々は「肝臓や腎臓で機能する核内受容体」の機能解析を行っています。具体的には、人工的にこの核内受容体を欠損させたノックアウトマウスを使用しています。ノックマウスを生化学検査、組織染色、mRNAやタンパク質の発現解析などの様々な解析を行い、正常マウスと異なるところを調べていきます。その結果、ノックアウトマウスは悪性の脂肪肝(NASH)を発症することが分かりました。アルコール性脂肪肝は良性なのに対して、非アルコール性脂肪肝(NASH)は肝硬変や肝癌にまで進行します。国内の患者数が約200万人と推定されるNASHの発症機構は不明なところが多く、治療薬もありません。また我々は、ノックアウトマウスをある条件にすると顕著にNASHの病態改善効果を示すことも明らかにしました。このため、ノックアウトマウスでのNASH発症機序のさらなる解析を行い、将来的にはNASHの診断薬や治療薬開発を目指しています。
物質・環境類
教授 井上 裕介
- An HNF4α-microRNA-194/192 signaling axis maintains hepatic cell function. J Biol Chem in press (2017)
- 「PPARαカスケードの活性化によるNASHの発症」第39回日本分子生物学会 (2016)(優秀ポスター賞)
- Hepatocyte nuclear factor 4α controls iron metabolism and regulates transferrin receptor 2 in mouse liver. J Biol Chem 290, 30855-30865 (2015).