微分方程式による数理構造の解明をめざして
微分方程式とは未知関数とその導関数が満たす関係式のことです.その未知関数を微分方程式の解とよびます.物理,化学,生物学.工学,経済学等,様々な場面での現象が,微分方程式をもちいた数学モデルとして表現されます.そして微分方程式の解の性質を精査することで、現象に含まれる数理構造を解明していくことが研究の大きな動機であり,抽象的な理論が多い数学の中でもかなり現実的な,応用的色彩の強い分野といえます.現在私は,波動現象を記述する微分方程式の解をもとに,弾性波の性質を考察しています.地球を弾性体とみなすと,地震のときに震源から最初に到達する波がP波(縦波),つぎに遅れて到達する波がS波(横波)です.このP波,S波は反射の際,興味ある現象を起こします.S波を境界面に入射するとS波が反射されますが(スネルの法則.この法則も微分方程式の解を使って“証明”できます),反射波としてP波も発生します.これをモードの変換とよんでいます.図は,性質に偏りのない等方的弾性体におけるモードの変換を,微分方程式の一つである弾性波動方程式の解uを求めることで正当化したものです.一方,偏りをもった非等方弾性体に対して,弾性波動方程式の解から反射角や反射波の伝播速度を求めるなどの問題が、これからの研究テーマとなります.微分方程式を追うことで現象をより詳しく解明していくという,苦しいながらも有意義な研究をめざしています.
基盤部門
教授 田沼 一実
- Kazumi Tanuma, Stroh Formalism and Rayleigh Waves (洋書単行本 全161ページ), Springer, 2007 (ISBN: 978-1-4020-6388-6) (Previously published in Journal of Elasticity, Vol. 89(1-3), 2007)
- 現象から微積分を学ぼう(垣田高夫,久保明達との共著)日本評論社 2013 年 (ISBN: 978-4-535-78647-9)
- 科学研究費補助金 基盤研究(C)平成26〜29年度「非等方弾性体における波動現象の漸近解析と逆問題」